PROFESSIONAL 2022.02.11

長い歴史の中で、大切に受け継がれてきた襷を繋ぎたい

代表取締役社長 西田 善彦

経営者になることは決めていた

物心ついたときから、経営者になることを決めていました。しかし、大学卒業後は、しばらくの間は他人の飯を食い、実社会の経験を積むべく水産系の会社に就職しました。水産系の会社であれば経験値が得られるだけでなく人脈も広がり、会社を継ぐときにも役立つと考えたのです。実際に、冷凍食品を手がける部署に勤めて学んだことは、その後の事業展開でも大いに役立っています。

就職してから3年後、佐伯海産の一員になりました。その頃の事業の柱は卸業で、佐伯湾や周辺の港からいりこや丸干し魚を仕入れ、全国各地の市場や問屋に卸していました。

冷凍倉庫の壁に大きく描かれたタイ

入社してしばらくは日本全国を飛び回っていました。出張するたびに取引先が紹介してくれる「地元の美味い魚」を食べましたが、やはり「佐伯の魚が一番美味い」というのが正直な感想でした。地元佐伯の美味しさを全国に届けたい。もっと多くの人にも食べてもらいたい。そう強く思いました。それから小売業界への参入を決断し、佐伯のあらゆる海産物が集まる「さいき海の市場◯(まる)」を2006年に開店しました。

数百年もの歴史がある、佐伯の「美味さ」の秘密

現代から時を遡ること400年。ここ佐伯は藩主・毛利高政公が治める城下町でした。番匠川下流にある八幡山に佐伯城を築き、町を整備しました。佐伯城の軍事的な防備や海上交通に活用された番匠川は、佐伯の海を育てるという点でも大きな役割を果たしました。魚つき林を整備することにより、森林の栄養分は、河川や土壌を経由して海に供給されます。これによってプランクトンがよく繁殖するので、海全体が豊かに育ちます。毛利高政公は城下町の発展のために開墾を進める一方で、魚が住みやすい環境作りにも力を入れました。魚が育つ環境に森林が重要な役割を果たすことを、その当時から理解していたからです。その後「佐伯の殿様浦でもつ」と言われるほど漁業が発展しました。

濃霞山公園から見渡す、朝の佐伯市街

佐伯市では恵まれた漁場を背景に、水産加工技術も大きく発展しました。技術開発に熱心な多くの加工業者が、伝統技法を大切にしながらも新しい技術を積極的に導入することで、常に品質を向上させてきました。今では「日本屈指の水産加工技術」と言われるほどです。恵まれた環境で美味しく育った魚と、水産加工の高い技術力。気の遠くなるほど長い時間をかけて作り上げてきた環境が、佐伯で獲れる魚の美味しさの秘密です。

生産者にもお客様にも、皆に喜んでもらいたい

海の市場○をはじめたときから、大切にしていることがあります。それは「関わる全ての人が幸せにする」ことです。事務所に掲げられた社訓にも「自社だけ儲かるようなビジネスはするべきでない」とあります。商品を提供してくれる生産者、その商品を買ってくれるお客様。その両方に喜んでもらえるビジネスをどう実現するか。その問いを考えることで、両者への向き合い方も変わりました。

まず、積極的に生産者と協業する仕組みをつくりました。多くの生産者と協業できれば、それだけ店頭に並ぶ商品のラインナップは広がり、お客様の選択肢も増えます。そのために、生産者が出店に関わる経費をできるだけ抑えられるようにしているほか、自社で所有する冷蔵庫は生産者が無料で使えるようにしています。そうすることで、生産者には手頃な価格で販売してもらえるようになりました。

今日も明日も、ひとつひとつ丁寧に。

「うちの商品も扱って欲しい」と言っていただけるよう、今後も生産者やその商品一つ一つを大切に扱い、お客様にお届けしたいと考えています。

SNSや越境ECなど新領域への挑戦

インターネットサービスの進化もあって、昔と比べて国の壁を超えたビジネスは実現しやすくなっています。佐伯の魚の美味さを、今度は世界に届けたい。Eコマースなどを活用して、まずは東南アジアをターゲットに越境ビジネスに挑戦してみたいと考えています。

今年の12月に、お客様の商品を保管する倉庫業の冷蔵庫を新築しました。これで大分県一を誇る容量になりました。新冷蔵庫には、二酸化炭素を排出しない技術が採用されており、環境省からもお墨付きをいただいています。持続可能な社会実現を見据えて、環境問題の分野でも挑戦を続けたいと思います。

佐伯の恵まれた環境を次の世代に

過去の人たちが何百年以上も大切に守り続けてきた佐伯の海

明治35年に祖父が海産物問屋として創業した西田商店、それが佐伯海産の始まりでした。先代がつくりあげたものは姿形を変え、次の代、次の代へと襷を繋ぐように、受け継がれてきました。

私が常に意識してきたのは「その時代に相応しい役割を果たす」ことです。これまで養殖飼料の凍結と販売、製氷業、卸業、飲食業、小売業など、その時代その時代で求めらることを事業化してきました。毎日毎日考え、試行錯誤を繰り返しました。当然、うまく行かなかったことも多くあります。

しかし、時代が変わっても、ずっと大切にしてきたものは変わりません。

過去の人たちが何百年以上も大切に守り続けてきた佐伯の海は、私たちの生活に多くの潤いをもたらしてくれました。私たち佐伯海産は、その潤いを地元佐伯や全国のお客様に届けることで事業を継続させてきました。今後も、お客様や生産者の皆様に喜んでいただけるように、また美味しい魚が育つ環境を守っていきたいと考えています。

佐伯の人々

今日のこの人

誰よりも仕事を愛し、楽しそうに働く仕事人。

寝ても覚めてもアイデアを模索するザ・仕事人。大学卒業後、株式会社ニチレイの冷食課に勤めた後、地元へ戻り佐伯海産に就職。冷凍食品への知見を活かし事業を拡大する。従業員・関係者への想いは海よりも深く、焼き立ての丸干しよりも熱い(火傷注意)。

\ 3店舗の旬な情報を発信中! /

Instagram